非接触事故とは?【裁判官の視点も解説】賠償責任の有無と過失割合の深層

1. はじめに:非接触事故 – 「見えない接触」が引き起こす問題

「非接触事故」という言葉をご存知ですか?
文字通り、車やバイク、自転車、歩行者などが直接ぶつかっていないにも関わらず発生する交通事故を指します。
「え、接触していないのに事故として扱われるの?」と疑問に思う方も多いかもしれません。

具体例としては、
対向車がセンターラインをはみ出して来たため、それを避けようとしたバイクが転倒した。
わき道から急に飛び出してきた自転車を避けようとして、自動車が電柱に衝突した。
歩行者のすぐ脇を猛スピードで車が通過し、驚いた歩行者が転倒してケガをした。
といったケースが挙げられます。

裁判所においても、このような非接触事故は通常の接触事故と同様に、あるいはそれ以上に複雑な法的問題を引き起こすものとして認識されています。
この記事では、交通事故問題に詳しい裁判官の講演録なども参考にしながら、非接触事故の賠償責任の有無や、特に気になる過失割合の考え方について、専門的な視点も交えつつ、分かりやすく掘り下げて解説します。
最後までお読みいただくことで、非接触事故に対するより深い法的理解と、万が一の際の具体的な対応策が見えてくるはずです。

2. 非接触事故における賠償責任の根幹:「相当因果関係」とは?

「ぶつかってもいないのに、なぜ賠償金を支払う必要があるの?」
これは非接触事故における最大の疑問点と言えるでしょう。
結論から申し上げると、たとえ直接の接触がなくても、賠償責任が生じるケースは十分にあります。

その法的な根拠となるのは、主に民法709条(不法行為責任)や自賠法3条(自動車損害賠償保障法)です。
これらの法律に基づいて賠償責任が認められるためには、「加害者の運転行為」と「被害者の損害(ケガや物の破損など)」の間に「相当因果関係」が存在すると判断される必要があります。

「相当因果関係」とは、平たく言えば、「もしあなたのその運転行為がなければ、相手がそのような損害を被ることはなかったであろう」と、社会通念上、客観的に認められるつながりのことです。
例えば、「500m離れた場所を走行している車を見て、以前の事故を思い出して驚愕し転倒した」という場合、条件的なつながりはあっても法的な相当因果関係は通常認められません。
裁判例では、この「相当因果関係」の有無が非常に重要な争点となります。

非接触事故の裁判例の約30%は、そもそもこの因果関係の有無が争われ、加害者側が賠償責任はない旨を主張しているようです。

もっとも、相当因果関係の存否が争われたものの、相当因果関係を否定した裁判例はほとんど見当たらなかったと報告されています。
このことは、「非接触である」という一点のみをもって、直ちに因果関係が否定されるわけではないことを示唆しています。

むしろ、加害車両の具体的な運行態様(速度、位置など)が、被害者の損害発生を引き起こすに足りる危険性を持っていたかどうかが問われます。
特に人身事故の場合、自賠法3条では被害者保護の観点から、加害者側に無過失の立証責任が転換されるため、因果関係の有無はより慎重に判断されます。
保険の観点では、この相当因果関係の認定が、自賠責保険や任意保険からの保険金支払いの可否にも直結するため、非常に重要なポイントとなります。

3. 非接触事故の過失割合:接触事故と何が違うのか?

賠償責任が認められたとしても、次に問題となるのが「過失割合」です。
これは、発生した損害に対して、加害者と被害者それぞれにどれくらいの不注意(過失)があったかを示す割合のことです。
この割合によって、最終的に受け取れる、あるいは支払う賠償金の額が大きく変動します。

交通事故の過失割合は、基本的には過去の膨大な裁判例を類型化し分析した「別冊判例タイムズ」(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)などを参考に決定されます。

この別冊判例タイムズについては、以下のページが参考になります。

別冊判例タイムズ

また、過失割合の基本的な考え方は、以下の記事も参考にしてください。

労災保険は過失割合の影響がない?メリットや注意点について

しかし、非接触事故の場合、接触事故の類型に単純に当てはめるだけでは実態にそぐわないケースが多く、特有の考慮要素が加わってきます。
裁判所が重要視しているのが、「被害者の事故回避措置の適切性」です。
非接触事故は、多くの場合、被害者が加害車両の危険な動きを察知し、それを避けようとした結果として発生します。

そのため、その回避行動が本当に必要だったのか、そして適切だったのかが大きな争点となるのです。

具体的には、以下の点が考慮されます。
①客観的接触の危険性はあったか?

回避行動をとらなければ、実際に接触・衝突していた可能性が客観的に高かったのか。

もし接触の危険性が低かったにも関わらず回避行動をとったのであれば、被害者の「過剰回避」と判断され、過失割合が不利になることがあります。

②回避行動により損害が拡大しなかったか?

回避行動自体は必要だったとしても、その方法が不適切で、かえって損害を大きくしてしまった場合(例:軽く接触する程度だったのに、急ハンドルで崖下に転落した場合など)も、被害者の過失とされることがあります。

③加害者の行為の危険性の程度

そもそも加害者の運転がどれほど危険で、被害者に回避行動を強いるようなものだったのか。
非接触であることが過失割合に「大きく影響した」と思われるものは多くはありませんが、これらのケースでは被害者が「接触すると誤信して回避措置を取った(客観的接触の危険性が低かった)」点が共通していたと指摘されています。
「被害者の事故回避措置の適切性」が実質的な考慮要素になっていることがあります。

このように、非接触事故の過失割合は、単純な類型当てはめではなく、事故の個別具体的な状況、特に回避行動の正当性が詳細に検討されるため、非常に複雑です。
もし、保険会社から提示された過失割合に納得がいかない場合は、安易に合意せず、交通事故に詳しい弁護士に相談し、法的な観点からアドバイスを受けることが極めて重要です。

4. 非接触事故で請求できる賠償金と立証のポイント

非接触事故であっても、相手の行為と損害との間に相当因果関係が認められ、相手に過失があると判断されれば、通常の交通事故と同様に損害賠償を請求できます。
請求できる主な損害項目には、以下のようなものがあります。

治療関係費: 診察費、入院費、薬代、通院交通費など。
休業損害: 事故によるケガで仕事を休んだために得られなかった収入。
入通院慰謝料(傷害慰謝料): ケガによる精神的苦痛への賠償。
後遺障害慰謝料・逸失利益: 後遺障害が残った場合の精神的苦痛や将来の減収分。
物的損害: 車両の修理費、代車費用など(回避行動による転倒・衝突で発生した場合)。

しかし、非接触事故で最も困難が伴うのが、これらの「損害」と「相手の運転行為」との間の因果関係、そして「回避行動の相当性」を客観的に立証することです。
「本当に相手の運転が原因でそのケガをしたのか?」

「その回避行動は避けられないものだったのか、それとも過剰だったのではないか?」

といった点が、相手方や保険会社から厳しく問われることになります。

だからこそ、事故の状況を正確に記録し、客観的な証拠を確保することが何よりも重要です。
近年普及が進んでいるドライブレコーダーの映像は、事故態様や回避行動の状況を克明に記録するため、非常に強力な証拠となります。
その他、事故直後の現場写真、目撃者の証言、正確な実況見分調書なども、あなたの主張を裏付けるために不可欠です。

これらの証拠収集と、それに基づいた適切な主張構成は専門的な知識を要するため、早めに弁護士に相談し、どのような証拠が有効か、どのように主張を組み立てるべきかアドバイスを求めることをお勧めします。

5. 万が一、非接触事故に遭遇したら…専門家が教える初期対応

もしあなたが非接触事故の当事者となってしまったら、まずは落ち着いて以下の初期対応を行ってください。

①安全確保と負傷者の救護: 自身と周囲の安全を確保し、負傷者がいれば速やかに救急車(119番)を呼びましょう。
②警察への届け出(110番): 非接触であっても、必ず警察に届け出てください。 警察への届け出がないと、交通事故証明書が発行されず、保険請求手続き等で大きな不利益を被る可能性があります。「接触していないから」と自己判断せず、必ず事故として処理してもらうことが重要です。
③相手の情報の確認: 加害者(または被害者)の氏名、住所、連絡先、車両ナンバー、勤務先、そして加入している自賠責保険・任意保険の会社名と証券番号を正確に確認し、記録しましょう。
④事故状況の記録・証拠保全:
ドライブレコーダーの映像は最優先で保存してください。上書き消去されないよう注意が必要です。
スマートフォンのカメラ等で、事故現場の状況(道路状況、車両の位置関係、ブレーキ痕の有無、自身のケガの状態など)を多角的に、広範囲にわたって撮影しましょう。
目撃者がいれば、協力を依頼し、氏名と連絡先を聞いておきましょう。
⑤自身の保険会社への連絡: 加入している自動車保険会社(任意保険)にも、事故の発生を速やかに報告し、今後の対応について指示を仰ぎましょう。
⑥病院での受診: たとえ軽いケガだと感じても、事故当日または翌日には必ず医師の診察を受けてください。 後から症状が悪化することもありますし、事故とケガとの因果関係を証明するためにも診断書は不可欠です。

非接触事故は、その性質上、当事者間での認識の齟齬が生じやすく、交渉が難航するケースが少なくありません。
特に因果関係や過失割合で意見が対立しやすいのが非接触事故の特徴ですので、できる限り早い段階で交通事故に強い弁護士に相談することを強く推奨します。

弁護士は、法的な観点からあなたの状況を分析し、必要な証拠の収集、相手方や保険会社との交渉、そして場合によっては訴訟対応まで、あなたを力強くサポートしてくれます。

弁護士への相談は、日本弁護士連合会のウェブサイトなどを通じて探すことができます。

6 まとめ

今回は、「非接触事故」の賠償責任と過失割合について、裁判官の視点も交えながら専門的に解説しました。
重要なポイントを再確認しましょう。

非接触事故でも、「加害者の運転行為」と「被害者の損害」の間に「相当因果関係」が認められれば、賠償責任が発生します。「接触がない」ことだけが免責理由にはなりません。

過失割合の判断では、判例タイムズを参考にしつつ、非接触事故特有の要素として「被害者の事故回避措置の適切性」が極めて重要視されます。

客観的な接触危険の有無や、回避行動が過剰でなかったかなどが詳細に検討されます。

損害賠償請求においては、ドライブレコーダー映像などの客観的証拠が、因果関係や回避行動の正当性を立証する上で決定的な役割を果たすことがあります。
事故に遭遇したら、警察への届け出、相手情報の確認、証拠保全、そして早期の病院受診を徹底しましょう。

非接触事故は、その目に見えない「接触」の評価が難しく、当事者にとっては納得のいかない結論に至りやすい事故類型かもしれません。
しかし、本記事で解説したように、法的にはしっかりとした判断基準が存在します。

「ぶつからなかったから仕方ない」と諦めてしまう前に、まずは交通事故問題に精通した弁護士に相談し、あなたのケースが法的にどのように評価されるのか、専門家の意見を聞いてみることが、正当な権利を守るための第一歩です。

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