死亡保険金は遺留分の対象になる?最高裁決定からみる特別受益の考え方

相続人の中に、亡くなった親の死亡保険金を受け取った方がいる一方、自分は財産をほとんど受け取れなかった――このようなケースで、「その保険金も遺留分の計算に含めてほしい」と感じる相続人の方は少なくありません。生命保険金(死亡保険金)は、遺産分割や遺留分侵害額請求の場面でしばしば争点となる財産です。原則としてどのような扱いになるのか、そして例外的に遺留分の算定に影響するケースについて、最高裁判所の決定を踏まえて弁護士法人キャストグローバル越谷レイクタウン支店が解説します。

死亡保険金は原則として遺留分の対象に含まれない

保険金請求権は受取人固有の権利

死亡保険金請求権は、被保険者が亡くなったことにより、保険契約に基づいて保険金受取人が保険会社に対して直接取得する権利です。被相続人が生前に有していた財産が相続人に承継される「相続財産(遺産)」とは法的な性質が異なるため、原則として遺産には含まれません。したがって、遺言や生前贈与によって遺留分を侵害された相続人が請求できる遺留分侵害額の計算の基礎財産にも、原則として算入されないと考えられています。

遺留分の算定基礎財産とは

遺留分侵害額請求における算定基礎財産は、民法1043条により「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、贈与した財産の価額を加え、債務の全額を控除した額」とされています。死亡保険金は被相続人が「有した財産」ではなく、受取人が固有に取得する権利であるため、この算定基礎財産の計算上、原則として加算されません。

例外的に遺留分の算定に影響するケース|最高裁平成16年10月29日決定

決定の内容

最高裁判所第二小法廷は、平成16年10月29日、死亡保険金の取扱いについて重要な判断を示しました(民集58巻7号1979頁)。この決定は、死亡保険金請求権は原則として特別受益(民法903条が定める、相続人が被相続人から生前贈与や遺贈によって受けた利益)には当たらないとしつつ、次のような枠組みを示しています。

保険金受取人である相続人と他の共同相続人との間に生じる不公平が、民法903条の趣旨に照らして到底是認できないほど著しいと評価すべき特段の事情が存在する場合には、同条の類推適用により、死亡保険金についても特別受益に準じて持戻しの対象となる、というものです。

「特段の事情」はどのように判断されるか

最高裁は、特段の事情の有無について、次のような事情を総合的に考慮して判断すべきとしています。

  • 保険金の額および遺産総額に対する保険金の比率
  • 保険金受取人である相続人と被相続人との同居の有無
  • 被相続人の介護等に対する貢献の度合い
  • 各相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態

遺産分割の場面における特別受益の考え方は、遺留分侵害額の算定基礎財産(民法1043条・1044条が算入対象とする贈与)を検討する場面でも同様に用いられると解されています。そのため、死亡保険金がこの「特段の事情」に該当し特別受益に準じると評価される場合には、例外的に遺留分侵害額請求の算定基礎に影響しうると考えられます。

この決定の要点

  • 死亡保険金は原則として遺産にも遺留分の算定基礎財産にも含まれません。
  • 保険金受取人と他の相続人との間に「著しい不公平」と評価される特段の事情がある場合は例外的な取扱いとなります。
  • 特段の事情は、保険金額の遺産総額に対する比率・同居や介護への貢献度・生活実態などを総合的に考慮して判断されます。
  • 明確な数値基準はなく、個々の事案の事情を丁寧に整理する必要があります。

実務上のポイント|どのようなケースで問題になりやすいか

保険金額が遺産総額の何割を超えれば特段の事情が認められるかについて、民法や判例上の明確な数値基準はありません。個々の事案の具体的な事情を総合的に評価する必要がありますが、実務上は次のような傾向がみられます。

着眼点 特段の事情が問題となりにくいケース 特段の事情が問題となりやすいケース
保険金額と遺産総額の関係 保険金額が遺産総額に比べて小さい 保険金額が遺産総額の大部分を占める、または遺産のほとんどが保険金に置き換えられている
相続人と被相続人との関わり 各相続人の被相続人との関わりに大きな差がない 保険金受取人以外の相続人が被相続人の同居・介護等を担っていた
遺留分侵害額請求への影響 保険金は算定基礎財産に含まれない 特別受益に準じるとの評価により算定基礎財産への算入が問題となりうる

死亡保険金が絡む遺留分のご相談は、個々の事情の丁寧な見極めが重要です。
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保険金の存在が明らかになるのは、遺産分割協議や遺留分侵害額請求の交渉が始まってからというケースも少なくありません。保険金の額や受取人を把握するためには、保険会社への照会や、他の相続人との資料開示のやり取りが必要になる場合もあります。

死亡保険金がこの原則的な取り扱いにとどまらず、遺産の大半を占めているような場合には、より個別的な検討が必要になります。
遺言がない場合にどのように遺留分侵害額請求を進められるかについては、生命保険金が遺産の大半を占める場合の対処法を解説した記事もあわせてご参照ください。

弁護士に相談するメリット

死亡保険金が絡む遺留分の問題は、法律関係の整理と事実関係の把握の両方が必要になる分野です。弁護士に相談することで、以下のようなメリットが期待できます。

  • 保険金額の遺産総額に対する比率や、受取人と被相続人との関わりなど、特段の事情の有無を法的な観点から整理できます。
  • 相手方に対する保険金・遺産の資料開示の求め方や、交渉・調停・訴訟の各段階で必要な主張立証のサポートを受けられます。
  • 遺留分侵害額請求権には期間制限(時効)があるため、早期に相談することで対応の選択肢を広く確保しやすくなります。

弁護士法人キャストグローバル越谷レイクタウン支店は、遺留分侵害額請求を含む相続問題の解決実績を持つ弁護士が対応しています。死亡保険金の扱いでお悩みの方も、まずはお気軽にご相談ください。

なお、死亡保険金と同様に、死亡退職金についても原則として遺留分の算定基礎財産に含まれないと解されています。
生前贈与に「持戻し免除」の意思表示があった場合の遺留分算定への影響も、あわせて問題になることがあります。
こうした遺留分の対象財産の範囲について詳しくは、遺留分の対象にならない財産を解説した記事もあわせてご参照ください。

よくある質問

死亡保険金の受取人が自分(遺留分権利者)ではない場合、遺留分侵害額請求はできなくなるのですか。

いいえ。死亡保険金自体は原則として遺留分の算定基礎財産に含まれませんが、それとは別に、遺言や生前贈与によって遺留分が侵害されていれば、通常どおり遺留分侵害額請求を行うことができます。保険金の存在が遺留分請求そのものを妨げるものではありません。

保険金受取人が相続人の1人だけの場合、それだけで「特段の事情」が認められますか。

受取人が特定の相続人1人であるという事実だけでは足りません。保険金額の遺産総額に対する比率や、受取人とその他の相続人それぞれの被相続人との関わり方など、複数の事情を総合的に考慮して判断されます。

保険金の金額や遺産の内容を知る方法はありますか。

保険会社への開示請求や、遺産分割・遺留分侵害額請求の手続きの中での資料収集の方法があります。個別の状況に応じた進め方について、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

「特段の事情」があると判断された場合、保険金の全額が遺留分の計算に含まれるのですか。

特別受益に準じて扱われる場合であっても、保険金の全額がそのまま算入されるとは限らず、事案ごとの事情に応じて判断されます。具体的な見通しについては、個別の事案の資料をもとに弁護士にご確認いただくことをお勧めします。

死亡保険金と遺留分のお悩みは、弁護士法人キャストグローバルへ

死亡保険金が絡む相続は、保険金額や遺産の内容、相続人それぞれの被相続人との関わりなど、法的な知識に基づく整理が欠かせません。越谷レイクタウン支店の弁護士が、状況を丁寧にお伺いした上で、解決に向けた見通しをご案内いたします。

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弁護士の的場崇樹(まとば たかき)
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