遺留分侵害額請求で自社株が対象に?事業承継の民法特例(除外合意・固定合意)を弁護士が解説
「後継者に自社株式を集中して承継させたいが、他の相続人の遺留分が気になる」——事業承継を検討する経営者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。自社株式や事業用資産は、非上場の中小企業であってもまとまった評価額になることが多く、遺留分侵害額請求の対象財産として扱われる可能性があります。本記事では、事業承継の場面で遺留分侵害額請求がなぜ問題になるのか、その対策として経営承継円滑化法に設けられている民法特例(除外合意・固定合意)の内容と手続きを、越谷の弁護士法人キャストグローバルが解説します。
この記事の監修者
的場崇樹 弁護士(弁護士法人キャストグローバル 越谷レイクタウン支店)
相続・遺留分に関するご相談を含め、豊富な解決実績を持つ弁護士です。
なぜ事業承継で遺留分侵害額請求が問題になるのか
中小企業の経営者の個人資産は、自社株式や事業用不動産が大部分を占めるケースが少なくありません。後継者一人に自社株式を集中して承継させようとすると、後継者以外の相続人(非後継者)の遺留分を侵害してしまう可能性が高まります。
自社株式の評価額が遺留分算定の基礎に含まれる
遺留分侵害額請求は、遺留分算定の基礎財産(民法1043条・1044条)をもとに金額を計算する手続きです。生前贈与や遺贈によって後継者が取得した自社株式も、原則としてこの基礎財産に含まれます。会社の規模によっては、自社株式の評価額だけで遺留分侵害額請求の金額が大きくなることがあります。
生前贈与や株価上昇によってもリスクは残る
相続開始前10年以内に相続人へ行われた生前贈与は、原則として遺留分算定の基礎財産に算入されます(民法1044条3項)。また、遺留分算定にあたっての財産評価は相続開始時を基準とする考え方が実務上とられているため、後継者が経営努力によって株式の価値を高めるほど、他の相続人からの遺留分侵害額請求の金額が大きくなり得るという構造的な問題があります。
この記事のポイント
- ● 自社株式は遺留分侵害額請求の対象財産に含まれるのが原則です
- ● 経営承継円滑化法には「除外合意」「固定合意」という民法特例があります
- ● 特例の利用には推定相続人全員の合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可が必要です
- ● 一人でも反対する相続人がいると特例は使えないため、早期の話し合いが重要です
遺留分に関する民法の特例(除外合意・固定合意)とは
経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)には、事業承継における遺留分の問題に対応するため「遺留分に関する民法の特例」が設けられています。後継者と推定相続人全員の合意を前提に、以下のいずれか、または双方を組み合わせて行うことができます。
除外合意——自社株式を遺留分の対象から外す
除外合意とは、後継者が先代経営者から贈与等によって取得した自社株式について、遺留分算定の基礎財産に算入しない旨を合意することです。除外合意が成立すると、対象となった自社株式は遺留分侵害額請求の対象から外れるため、後継者は株式の分散を心配せずに経営を続けやすくなります。
固定合意——評価額を合意時点の価額に固定する
固定合意とは、自社株式の遺留分算定上の評価額を、合意した時点の価額に固定する合意です。固定合意を行うと、後継者の経営努力によって株式の価値が上昇しても、上昇分は遺留分算定の対象に含まれません。なお、合意時点の評価額については、税理士・公認会計士・弁護士等による証明が必要とされています。
付随合意——株式以外の財産や相続人間の衡平への配慮
除外合意・固定合意とあわせて、自社株式以外の事業用財産を遺留分算定の対象から除外する合意や、非後継者との衡平を図るための取り決め(金銭の支払いなど)を行うことも可能です。付随合意は除外合意・固定合意とセットでのみ行うことができ、単独で利用することはできません。
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特例を受けるための要件と手続きの流れ
除外合意・固定合意の適用を受けるには、会社・先代経営者・後継者のそれぞれについて要件を満たしたうえで、法律で定められた手続きを踏む必要があります。
会社・先代経営者・後継者に関する要件
- 会社:中小企業者であり、合意時点で3年以上継続して事業を行っている非上場企業であること
- 先代経営者:過去または合意時点において会社の代表者であったこと
- 後継者:合意時点において会社の代表者であり、先代経営者からの贈与等により株式を取得し、会社の議決権の過半数を保有していること
| 項目 | 除外合意 | 固定合意 |
|---|---|---|
| 遺留分算定への影響 | 対象株式を基礎財産から除外 | 評価額を合意時点の価額に固定 |
| 主な利点 | 株式の分散防止を徹底しやすい | 株価上昇分を遺留分の対象から外せる |
| 評価額の証明 | 原則不要 | 税理士・公認会計士・弁護士等による証明が必要 |
経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可という2段階の手続き
推定相続人全員と後継者の合意が成立したら、後継者は合意日から1か月以内に経済産業大臣へ確認の申請を行います。経済産業大臣の確認を受けた後は、確認を受けた日から1か月以内に、先代経営者の住所地を管轄する家庭裁判所へ許可の申立てを行う必要があります。家庭裁判所は、合意が当事者全員の真意に基づくものであると認められない限り、許可をすることができません。
民法特例を利用する際の注意点
推定相続人全員の合意が前提となる
除外合意・固定合意は、後継者を含む推定相続人全員の合意がなければ成立しません。一人でも反対する相続人がいる場合は、この特例を利用することができないため、早い段階から相続人間で丁寧に話し合いを進めることが重要です。
後継者の議決権要件(濫用防止規定)
合意の対象となる株式等を除いたとしても、後継者が会社の議決権の過半数を確保できる場合には、除外合意・固定合意をすることができません。これは、特例の対象とする必要がない場合にまで適用範囲を広げないための仕組みです。
弁護士に相談するメリット
除外合意・固定合意の制度は、推定相続人全員の合意形成、合意書の作成、経済産業大臣への確認申請、家庭裁判所への許可申立てと、複数の手続きが連続する複合的な制度です。弁護士に相談することで、相続人間の利害調整や交渉の進め方について助言を受けられるほか、必要書類の準備や申請・申立ての手続きについてもサポートを受けることができます。また、既に自社株式の承継が終わっており、非後継者から遺留分侵害額請求を受けている場合についても、状況に応じた対応方法をご相談いただけます。
よくある質問
除外合意と固定合意は、どちらを選べばよいですか?
どちらを選ぶか、あるいは両方を組み合わせるかは、後継者にどこまで経営権を確保させたいか、非後継者との関係性、会社の将来的な成長見込みなど、個別の事情によって異なります。事案ごとの検討が必要ですので、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
推定相続人の一人が合意に反対した場合はどうなりますか?
除外合意・固定合意は、後継者を含む推定相続人全員の合意が前提となる制度です。一人でも反対すると、この特例を利用することができません。反対する相続人がいる場合は、付随合意による衡平への配慮や、生前贈与・遺言など他の対策とあわせた検討が必要になります。
民法特例を使わずに事業承継をした場合、後から遺留分侵害額請求をされたらどうなりますか?
特例を利用していない場合、後継者が承継した自社株式も遺留分算定の基礎財産に含まれるのが原則です。非後継者から遺留分侵害額請求を受けた際は、話し合いによる解決のほか、分割払いや裁判所の期限の許与制度の利用が検討されるケースもあります。個々の事情に応じた対応方針の検討が必要です。
手続きにはどのくらいの期間がかかりますか?
推定相続人全員の合意形成に要する期間は個別の事情によって異なりますが、合意成立後は、経済産業大臣への確認申請(合意日から1か月以内)、家庭裁判所への許可申立て(確認を受けた日から1か月以内)という流れで進みます。戸籍謄本等の書類収集や相続人間の調整を含めると、一定の準備期間を見込んでおくことが望ましいといえます。
事業承継と遺留分の問題は、弁護士へご相談ください
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