遺留分侵害額請求の相手が「お金がない」と言ったら?分割払いの交渉と裁判所の期限許与制度

遺留分侵害額請求を行った後、相手方から「支払うお金がない」と言われて話が進まなくなるケースは少なくありません。遺留分侵害額請求権は、令和元年の民法改正により金銭債権として整理されたため、原則として金銭による一括での支払いが想定されています。しかし、遺産の大部分が不動産で占められている場合など、請求を受けた側にまとまった現金がないという事情は現実によくあります。今回は、相手方が「お金がない」と主張した場合にどのような対応が考えられるか、分割払いの交渉と裁判所による期限の許与について解説します。

なぜ「お金がない」と言われるケースが多いのか

遺産の大部分が不動産で占められている

亡くなった方の財産が自宅不動産や事業用不動産を中心に構成されている場合、それを取得した相続人の手元に、遺留分侵害額に相当する現金が用意されていないことがあります。不動産を売却しなければ支払いの原資を確保できないという事情は、遺留分をめぐる交渉の場面で頻繁に見られます。

支払いを先延ばしにしたいだけの場合もある

他方で、実際には資力があるにもかかわらず、時間を稼ぐ目的で「お金がない」と述べているだけのケースも見られます。相手方の主張が事実に基づくものかどうかを見極めるためには、相手方の財産状況について資料の開示を求めるなど、客観的な情報を集めながら交渉を進めることが重要です。

分割払いに応じる場合の注意点

合意内容を書面化する

分割払いに応じる場合であっても、口頭の約束だけで済ませてしまうと、後になって支払いが滞った際に回収が難しくなる可能性があります。支払回数・各回の金額・支払期日・遅延した場合の対応などを明記した合意書を作成し、可能であれば強制執行認諾文言付きの公正証書としておくことが望ましいといえます。

分割払いに応じるかどうかの判断基準

分割払いに応じるべきかどうかは、相手方の資力の実情、不動産売却による一括弁済の可能性、分割払いの期間、そして時効管理の観点などを踏まえて総合的に判断する必要があります。安易に長期の分割払いに応じてしまうと、支払いが完了するまでの間、相手方の資力悪化や連絡不能といったリスクを抱え続けることにもなりかねません。

話し合いで解決しない場合は「期限の許与」という制度がある

民法1047条5項の期限の許与とは

遺留分侵害額請求をめぐって当事者間の話し合いがまとまらず、調停や訴訟に移行した場合、裁判所は、請求を受けた側(受遺者・受贈者)の請求により、金銭債務の全部または一部について、相当の期限を許与することができるとされています(民法1047条5項)。これは、遺留分侵害額請求権が金銭債権として一括払いを原則とする一方で、支払う側の資力によっては直ちに全額を用意することが難しい場合があることを考慮して設けられた制度です。

期限の許与が認められるかどうかの考慮要素

期限の許与を認めるかどうか、また認める場合にどの程度の期間とするかは、裁判所が事案ごとの事情を踏まえて判断します。遺産の内容や換価の難易度、支払う側の収入・資産状況、遺留分権利者側の生活状況など、双方の事情が考慮の対象となります。期限の許与はあくまで裁判所の裁量による判断であり、請求を受けた側が「お金がない」と述べるだけで当然に認められるものではありません。

遺産の中に不動産しかなく、支払い方法にお悩みになるケースも少なくありません。
このような場合に考えられる期限の許与の判断要素や代物弁済という選択肢については、遺留分侵害額請求で不動産しか財産がない場合の解決方法のページで詳しく解説しています。
あわせてご参照ください。

弁護士に依頼するメリット

相手方が「お金がない」と主張してきた場合、その主張が実情に即したものかどうかを見極め、分割払いに応じるとしてもご自身にとって不利にならない条件を整えることが重要です。相続問題の解決実績を持つ弁護士に相談することで、相手方の資力状況の確認方法、合意書や公正証書の作成、期限の許与を求める調停・訴訟対応まで、状況に応じた進め方についてアドバイスを受けられます。ご自身だけで交渉を進め、不利な条件での分割払いに応じてしまう前に、早めにご相談いただくことをおすすめします。

よくある質問

Q. 分割払いに応じないと、こちらが不利になりますか?

分割払いに応じるかどうかはご自身の判断に委ねられており、応じる義務があるわけではありません。話し合いがまとまらない場合は、調停や訴訟の中で裁判所の判断(期限の許与を含む)を求めることも選択肢の一つです。

Q. 相手が本当にお金がないのか、確認する方法はありますか?

交渉の中で資産状況に関する資料の開示を求めることができるほか、調停・訴訟に移行した場合には、財産開示に関する手続を活用できる場合があります。ご自身だけで資力の実情を把握することが難しい場合は、弁護士にご相談ください。

Q. 分割払いの合意書は自分で作成しても良いですか?

ご自身で作成すること自体は可能ですが、支払いが滞った場合に備えた条項(期限の利益喪失条項など)や、強制執行認諾文言付き公正証書の活用など、法的な観点からの検討が必要な点も多くあります。作成前に弁護士へご確認いただくことをおすすめします。

Q. 期限の許与が認められると、こちらの取り分は減りますか?

期限の許与はあくまで支払いの時期を猶予するものであり、遺留分侵害額そのものが減額されるわけではありません。ただし、支払いが長期化することで生活への影響が生じる可能性もあるため、猶予期間の長さについても交渉・主張していくことが大切です。

遺留分の支払いをめぐるお悩みは、弁護士にご相談ください

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弁護士の的場崇樹(まとば たかき)
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