2026年9月5日

【弁護士解説】群馬・関越道67台の多重事故で26人書類送検、複数の加害者がいる交通事故の損害賠償請求はどうなるか

群馬県みなかみ町の関越自動車道で発生した、乗用車やトラックなど67台が関係する多重事故について、群馬県警は2026年8月28日、事故に関係した26人を自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷・過失運転致傷)や道路交通法違反(安全運転義務違反)の疑いで書類送検しました。
この事故では2人が死亡し、23人が重軽傷を負っています。
今回は、多数の運転者が関与する多重事故を題材に、被害者側から見た損害賠償請求の考え方を整理します。

この記事でわかること

  • 多重事故における各運転者の過失割合の考え方
  • 加害者が複数いる場合の損害賠償請求の方法(共同不法行為)
  • 積雪・凍結など天候要因がある事故で注意すべき点

事案の概要

報道によれば、2025年12月26日夜、群馬県みなかみ町の関越自動車道下り線・水上インターチェンジ付近で、軽トラックが中央分離帯に衝突する事故が発生し、その後方から走行してきた大型トラックなど後続車両が次々と衝突・炎上する多重事故に発展しました。
事故は約300メートルの範囲にわたり、合計46件の交通事故が連続して発生したとされています。
当時、現場周辺には大雪警報が発表されており、路面には積雪・凍結があったため、最高速度は時速50キロに規制されていました。
群馬県警は、事故に関係した26人について、速度調整など安全な運転を怠った疑いがあるとして、2026年8月28日に書類送検しました。
書類送検された容疑の内訳は、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の疑いが7人、同法違反(過失運転致傷)の疑いが16人、道路交通法違反(安全運転義務違反)の疑いが3人とされています。
捜査機関は、事故車両のドライブレコーダーの映像や現場に残されたブレーキ痕、各運転者の走行速度に関する分析結果などをもとに、車両ごとの過失の有無・程度を検討したものとみられます。

参考: 神奈川新聞(共同通信配信)「関越道多重事故で26人書類送検」(2026年8月28日配信)

法的な問題点の整理

1. 多重事故における過失割合・因果関係の特定

通常の追突事故では、後続車両に事故発生の予見・回避義務があるとして重い過失が認められる傾向にありますが、今回のように46件もの事故が連続して発生した多重事故では、どの車両の衝突がどの被害にどこまで影響したのかという因果関係の特定自体が難しい事案となります。
先行して停止・炎上していた車両を認識できたかどうか、視界不良の程度、各車両の速度規制の遵守状況などを個別に検討し、車両ごとに過失の程度を分けて判断する必要があります。
裁判例では、複数の加害者の過失が競合する一つの交通事故について、被害者の過失を個別の加害者ごとに分けず、加害者側の過失全体に対して一体として相殺する「絶対的過失相殺」の考え方が採用された例があります(最高裁平成15年7月11日判決)。
ただし、この判決はあくまで当該事案の個別事情を踏まえたものであり、他の多重事故事案でも同様の判断枠組みが用いられるとは限らない点にご留意ください。

2. 加害者が複数いる場合の損害賠償請求(共同不法行為)

今回のように多数の運転者が関与する事故では、被害者が「誰に対して、どこまで賠償を請求できるのか」が問題となります。
民法719条は、複数人が共同の不法行為によって他人に損害を与えた場合、各人が連帯して損害賠償責任を負うと定めています(共同不法行為)。
この場合、被害者は加害者の一人に対して損害の全部を請求することも、複数の加害者に個別に請求することも可能とされており、請求を受けた加害者間の負担割合の調整(不真正連帯債務)は、加害者同士の間で事後的に行われることになります。
被害者としては、まずどの車両の運転者にどの程度の過失があったのかを示す資料(事故現場の写真・ドライブレコーダーの映像・捜査資料等)を確保することが重要になります。

3. 積雪・凍結という天候要因は免責事由にならない

「雪道でスリップした」「視界が悪かった」といった天候・道路状況は、事故の背景事情として考慮されることはありますが、それ自体が運転者の責任を否定する事由になるとは限りません。
道路交通法70条は、運転者に対し、道路や交通の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転する安全運転の義務を課しています。
今回の事故で書類送検された26人の多くは、規制速度である時速50キロを超えて走行していたとされており、気象条件に応じた減速や車間距離の確保を怠ったことが過失の内容として問題になり得ます。
被害者側から見れば、事故当時の気象データ・速度規制の状況・各車両の走行速度に関する捜査資料は、過失の有無を判断する上で重要な証拠となります。

4. 複数の任意保険会社が関係する場合の交渉上の注意点

今回のように加害者となり得る運転者が多数にのぼる事故では、対応する任意保険会社も複数にわたることが一般的です。
被害者としては、どの保険会社がどの車両・どの運転者を担当しているのかをまず把握し、それぞれから提示される過失割合や賠償額の考え方に食い違いがないかを確認する必要があります。
保険会社ごとに提示内容や交渉の進み方が異なる場合、被害者側が個別に対応すると負担が大きくなりやすく、全体像を把握しないまま一部の保険会社とだけ示談を進めてしまうと、他の加害者への請求に影響が生じる可能性もあります。
特に、後遺障害が残るケースや死亡事故のケースでは、将来の介護費用・逸失利益等の算定に関わる資料も多くなるため、示談を急がず、資料を整理した上で対応することが望まれます。
死亡事故における損害項目としては、死亡慰謝料・逸失利益(被害者の年齢・収入等をもとに算定)・葬儀関係費用などが挙げられ、後遺障害が残った場合には、認定された等級に応じた後遺障害慰謝料・逸失利益に加え、将来の介護費用や自宅改修費用等が問題になることもあります。
任意保険会社が当初提示する金額は、自賠責保険基準や各社独自の基準に基づくことが多く、裁判基準(弁護士基準)による算定額とは異なる場合があるため、それぞれの損害項目について算定根拠を確認することが重要です。

同様の状況に置かれた方へ

多重事故に巻き込まれた場合、通常の一対一の事故と比べて、加害者となる可能性のある運転者が多数に及び、誰にどの程度の請求ができるのかを被害者自身で整理することは容易ではありません。
また、関係する任意保険会社も複数にわたることが多く、それぞれの保険会社との交渉が同時に進行することもあります。
ご家族が死亡または重い後遺障害を負われた場合には、慰謝料・逸失利益・将来の介護費用など、検討すべき損害項目も多岐にわたります。
このような複雑な事案では、弁護士に相談することで、責任関係の整理や証拠収集の方針、各加害者・保険会社との交渉の進め方について助言を受けられる場合があります。
裁判基準(弁護士基準)の適用により、任意保険会社が当初提示する金額から増額が見込めるケースもありますので、示談を進める前に一度確認することをおすすめします。

まとめ

多数の車両が関係する多重事故では、各運転者の過失割合の特定や、共同不法行為に基づく損害賠償請求の方法など、通常の交通事故とは異なる検討事項が生じます。
積雪・凍結といった天候要因があっても、運転者の安全運転義務が当然に免除されるわけではない点も重要です。
ご自身やご家族が同様の事故に遭われた際は、証拠の保全を意識しつつ、早めに弁護士へ相談し、状況の整理から始めることをご検討ください。

あわせて読みたい記事・解決事例

今回のように、一つの事故に複数の加害者が同時に関与する場合は、民法719条の共同不法行為として、原則として各加害者が損害の全部について連帯して責任を負います。
これに対し、時期の異なる複数の交通事故が重なり、損害の切り分けが問題となるケース(異時共同不法行為)は法的な考え方が異なりますので、以下の記事もあわせてご参照ください。
→異時共同不法行為とは?複数の交通事故が重なった場合の損害賠償の考え方

複数の事故が関わる案件について、弊所が実際に解決した事例もございますので、あわせてご覧ください。
→異時共同不法行為に該当する2つの事故を依頼者に有利に分断して解決し、賠償金を増加させた事例
→短期間の間に複数の交通事故に遭ったものの、各々の事故を切り離して示談解決した事例

 多重事故で請求できる損害項目や賠償金の算定基準については、慰謝料・賠償金の考え方で解説しています。
 複数の保険会社との交渉を進める際の基本的な流れは、示談交渉の基礎知識をご覧ください。
 後遺障害が残った場合の等級認定の手続きについては、後遺障害等級認定のポイントもあわせてご確認ください。
 弁護士に相談することで得られる具体的なメリットは弁護士に依頼するメリットで解説しており、ご相談のお申し込みはお問い合わせフォームから受け付けています。

※本記事で紹介した裁判例は、あくまで当該事案の個別事情に基づく判断であり、他の事案において同様の結果が保証されるものではありません。個別の事案における法的判断は、具体的な事実関係に基づき異なります。

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