「異時共同不法行為」という言葉を、保険会社とのやり取りや書籍で目にして、意味が分からず戸惑われた方も多いのではないでしょうか。
実は、この概念は法律の専門家の間でも見解が分かれる難解な分野であり、下級審の裁判例でも判断が大きく揺れています。
本記事では、複数の交通事故が時間を置いて重なり、同一の部位を負傷してしまった場合に、法律上どのように損害賠償の範囲が決まるのか、裁判例の傾向を踏まえて整理します。
異時共同不法行為とは
民法719条1項は、「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。」と定めています。
前段は、複数の加害者の行為が一体のものと評価できる場合の規定であり、後段は、本来、集団の中の誰かが加害行為をしたが加害者を特定できない、いわゆる「加害者不明型」の事案を想定した規定です。
このうち、時間的にも場所的にも近接しない2つの交通事故(以下「純粋異時事故」といいます)が競合し、同一部位への損害という結果が生じた場合を「異時共同不法行為」と呼びます。
具体的には、第一事故によるケガの症状が固定する前に第二事故に遭い、同じ部位を負傷してしまったようなケースが典型例です。
この場合、後段の規定を適用(類推適用を含みます)できるかどうかについて、これを肯定する見解(肯定説)と否定する見解(否定説)が対立しており、下級審の裁判例も判断が分かれています。
裁判実務では「否定説」が多数-時間的近接性だけでは足りない
ある裁判例は、719条1項後段の共同不法行為が成立するのは、両事故に客観的関連共同性をうかがわせる事情があり、かつ各事故の損害に対する寄与度の判断が困難であるといえる場合に限られるとした上で、時間的・場所的近接性の程度をその重要な考慮要素としています。
実際の裁判例を見ると、次のような傾向が見られます。
数日から数週間程度の間隔で発生した事故について、719条1項後段の適用を認めた例としては、事故の間隔が約2か月半(東京地裁平成21年2月5日判決・交民集42巻1号110頁)、6日間(大阪地裁平成12年2月29日判決・交民集33巻1号407頁)、5日間(名古屋地裁平成10年12月25日判決・自保ジャーナル1316号3頁)などのケースがあります。
その一方で、約1週間の間隔(大阪地裁平成26年5月13日判決・自保ジャーナル1928号62頁)や約5週間の間隔(名古屋地裁平成26年6月27日判決・自保ジャーナル1931号85頁)で発生した事故について、719条1項後段の適用を否定した裁判例もあります。
このように、事故の間隔が短いというだけで当然に共同不法行為が成立するわけではなく、受傷部位の共通性や治療経過の連続性など、複数の事情を総合的に考慮した上で判断されているのが実情です。
このため、裁判実務では、時間的場所的に近接しない2つの事故について719条1項後段を適用することができないと考えるのが大勢となっています。
否定説がとられた場合の実務上の処理-寄与度による按分
719条1項後段の適用が否定される場合、被害者は、各事故と損害との間の相当因果関係を個別に主張・立証する必要があり、第二事故以降に生じた損害については、各加害者が与えた影響の割合(寄与度)に応じて賠償責任が按分されることになります。
裁判例を見ると、寄与度の認定に当たっては、主に次のような事情が考慮されています。
①第一事故による傷害の内容・程度
②第一事故に対する治療状況と回復経過
③第二事故発生前の症状
④第二事故直後の症状
⑤第二事故後の治療状況と回復経過
⑥各事故の衝撃の程度
これらの事情を踏まえて、実際の裁判例では、第一事故と第二事故の寄与度を3割と7割とする例や、5分の3と5分の2とする例、さらには5%と95%とする例など、事案に応じて幅のある判断がされています。
なお、理論上は、各事故と損害との因果関係や寄与度が不明な場合、被害者の請求が棄却されるという結論もあり得ますが、実際には、間接事実の積み重ねや民事訴訟法248条の規定(損害の性質上その額を立証することが極めて困難な場合に、裁判所が相当な損害額を認定できるとする規定)により、寄与度が最終的に認定される例がほとんどであるといわれています。
類似する場面としての交通事故と医療過誤の競合
なお、交通事故と医療機関の医療過誤が競合して被害者に不可分の結果(死亡等)が生じた事案について、最高裁判所は、複数の原因が競合して被害者に不可分の一個の結果を生じさせた場合には民法719条所定の共同不法行為に当たるとして、各不法行為者に損害全額についての連帯責任を認め、寄与の割合によって責任の範囲を限定することは許されないと判断しています(最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号328頁)。
もっとも、この判例は交通事故と医療過誤という異なる性質の原因が競合した事案であり、二つの交通事故が競合する場面にそのまま当てはまるものではありません。
実務上、二つの交通事故が競合する事案では、前述のとおり、時間的・場所的な近接性が乏しい場合には共同不法行為の成立が否定される傾向にある点に注意が必要です。
被害者側で押さえておくべき実務上のポイント
以上のとおり、異時共同不法行為が問題となる事案は、法律上の見解が分かれる難しい分野であり、被害者ご自身の判断だけで適切な損害賠償の範囲を見極めることは容易ではありません。
実務上、特に次の点を押さえておくことが重要です。
第一に、通院した全ての医療機関からカルテ等の資料を早期に取り寄せ、各事故による受傷内容や治療経過、症状の変化を時系列で整理しておくことです。
寄与度の認定は、こうした診療経過に関する客観的資料に基づいて行われるため、資料の散逸を防ぐことが重要になります。
第二に、第二事故の治療が終わる前に、第一事故の加害者側保険会社と示談をしないことです。
一度示談書を取り交わしてしまうと、その後に生じた損害について改めて交渉することができなくなるためです。
第三に、裁判基準(弁護士基準)の適用により、大幅な増額が見込めるケースもありますので、早い段階で解決実績を持つ弁護士に相談し、各保険会社との交渉方針を整理しておくことが望ましいといえます。
まとめ
異時共同不法行為は、裁判実務においても判断が分かれる難しい分野であり、事故の間隔や受傷部位、治療経過など、事案ごとの個別事情を丁寧に検討する必要があります。
第二事故が発生した際の具体的な対応方法や注意点については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
二度目の交通事故に遭ってしまった場合の損害賠償の範囲について
【弁護士解説】群馬・関越道67台の多重事故で26人書類送検、複数の加害者がいる交通事故の損害賠償請求はどうなるか
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異時共同不法行為に該当するかどうかは、事故の時間的・場所的近接性など個別の事情によって判断が分かれます。
賠償金の考え方については慰謝料・賠償金請求の基礎知識もあわせてご確認ください。
複数の事故が絡む複雑なケースこそ、弁護士に相談するメリットをご参照のうえ、早めのご相談をご検討ください。
異時共同不法行為に該当するかどうかの判断や、各事故への賠償額の振り分け方は、慎重な検討が必要になる場合があります。
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